■ 尻尾にまつわるエトセトラ3 ■








草木も眠る、丑三つ時。

訓練生達が寝食を共にする宿舎からは、すべての明かりがとうに消え、聞こえるのは訓練生達の寝息だけ。
皆が眠りについている中、ただひとつだけ動く物陰があった。

その影は、慣れた様子で壁をよじ登ると、予め鍵をかけずにいたらしい窓から室内へと入った。

「ふぅ、すっかり遅くなってしまったであります」

音も立てずに床に下りる。

と、そのとき。



「ずいぶん遅かったな」

すっかり先に寝ているものと思っていたルームメイトに声をかけられ、ケロロは飛び上がった。

「ギロロ…!あービックリした」
「ビックリした、じゃない。こんな時間までどこに行ってたんだ」
「…」
どうせどこぞで遊んでいたのだろう。
それが気まずいのか、ケロロは答えない。

「…ふん、まぁイイ。明日は早いぞ」
「明日?なんかあったっけ?」
「お前が宿舎を抜け出しているのが教官にバレた」
「うげっ!!」
「同室の俺も連帯責任だと朝一で呼び出されてる。言い訳はそのときたっぷり聞かせてもらうからな」
「ゲロ〜…」

「せいぜい今夜はよく寝て明日に備えることだ」
「そうするであります。ギロロも早く寝るとイイでありますよ」
ブーブーと文句を言うかと思われたケロロは、意外にもギロロの言葉に素直に頷いた。

「なんだ、文句を言わないのか。珍しいな」
「いやー、悪いのは我輩でありますからな。ってゆーか、明日は我輩一人で教官のところに行くから、ギロロはこのままゆっくり休むであります」

どうも様子がおかしい。
「貴様、何を隠している?」
「べ、別に隠してないであります」

ギロロが一歩近づくと、ケロロも一歩後ろに下がった。
後ろに回した腕が、かなり不自然だ。

「じゃあ、後ろを向いてみろ」
「なんで我輩がそんなこと…つか、早く寝たら?」

目が左右に泳ぎ、挙動不審極まりない。
「気になって眠れるか!見せろ!」
「ちょ!ギロロ暴力は…!」

無理やり手を引き寄せてみれば、
「何も持ってないじゃないか」
「だから隠してないって言ったデショー!」

――いや、絶対何か隠している。

これは、長年ケロロと付き合ってきた、ギロロの勘だった。
手でないならば、背中か――。

ケロロの腕を拘束したまま、強引に後ろを向かせる。
「お前、怪我しているのか?」
ケロロの体が一瞬硬直するのがわかった。

――ビンゴだ。

薄暗くてよく判らないが、確かに尻尾に赤黒い何かが付着していた。

「怪我をしてるなら、手当てが必要だろう」
「いらない!大丈夫!」
「しかし…」
「いいからほっといてっ!」

そう言われても、怪我をしているのならば放ってはおけない。
ギロロはケロロの尻尾に手を伸ばし、怪我の具合を確かめる。

「あ、馬鹿!ギロロのエッチ!」





と。




「…確かに、これは手当ての必要はないな」
「げ、ゲロ…」

ソレが、怪我による血の痕ではないと気づいた瞬間、ギロロの声のトーンがひとつ下がった。
うつむいて、硬く拳を握り、それが細かく震えている。
今にも爆発しそうな怒りを押さえ込んでいるのが、そこからありありと見て取れた。

ケロロの尻尾についた、赤い染み。否、印しは。

どこからどう見ても、キスマーク以外の何物でもなかったのである。

「いっやー、なんか『シッポの取れるおまじないv』とか言って、お店の女の子達がさー」
あはは、と笑ってごまかすケロロ。
「…店?」
「しまっ…!べべべべ、別に学校で禁止されてる如何わしい店に行った訳じゃ――」
「行ったんだな?」
行きました。あー!でも楽しくおしゃべりしてただけであますよー!!!」
「…貴様というヤツは…」
きつく握り締めたギロロの拳に青筋が立つ。

「あーもう、どうせ明日教官に叱られるんだから、勘弁して欲しいであります!」



「…わかった」


そう言って、顔を上げたギロロの目は。
怒りを通り越して戦闘<マジギレ>モードに突入していた。
「!!!」

「貴様がそこまで尻尾を気にしているとは知らなかった」
「や、別にシッポは…」

「俺が手伝ってやる」
「はぃ?」
「貴様も、噂くらいは聞いたことがあるだろう」
「うわ、何だかどこかで聞いた台詞…ってちょっとギロローッ!!」

「俺の方はもう取れてるからな。遠慮はいらん」
ケロロを引っ張る力は強く、為す術もなくズルズルと引きずられていく。

「待った待った!ちょっと待ってーぃ!!」
「待たん」




「ゲロ〜〜ッ!!」






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私のギロケロ妄想のギロロはヘタレじゃないんだぜ?(私信)

「学校で禁止されている如何わしいお店」は、きゃばくらとかのイメージで。
おしゃべりで調子のいい、しかもまだシッポつきで可愛い外見のケロロはお店のお姉さんにモテモテvという脳内設定。
お金(あんまり)払わなくてもいっぱい遊んでくれます。
ギロロも1回くらいは付き合わされたことがあるんじゃないかなーの妄想。
「バレたら退学だぞ」とか言ってケロロをいさめるんだけど、「これで最後にするから」とかなんとか言いくるめられて、逆につれてかれてたりとか。

帰りの遅いケロロを、ギロロは、「どうせ遊んでるんだろう」と思いつつも、心のどっかでは本気で心配してたんじゃないかなー。
だから、帰ってきたときは、怒ってるけど、ほっとしてる方が強くてあんまり叱らない。
なのに。なのにさー。

なんか夫婦みたいになっちゃったけど、この時点では二人はまだ気持ちを確かめ合うことすらしていないのではないかな程度の関係で。
うすうす感ずいてる?くらいかな。
あー、そういうのも書きたいなぁ。。。never ending 妄想。

と、いうわけで?尻尾云々はどちらも言い訳です。
そろそろこうなるタイミングだったんだよ。きっと。うん。
ほぼ完徹で、明日教官の前で居眠りしちゃったりするといい!

果たして尻尾は取れるのか!?

噂の検証