■ ケロロ学園 〜Pure Side〜 ■


下校の放送も終わりに近づいてきた頃。
昇降口を出たところで、ケロロがギロロを呼び止める。

「ギロロ、ちょっと!」
手招きされるまま近づくと、ケロロはギロロの腕を強く引っ張った。
「なんだよ」
「いいから、来て!」

人気の少ない校舎の裏まで来ると、ケロロはようやくギロロを解放した。
「ヒトに、聞かれたくなかったからさ〜」
と、モジモジと躊躇うそぶりを見せる。

昨日の夕方、たまたま見たドラマの再放送とそっくりなシチュエーションに、ギロロは俄かに緊張する。
手のひらが、じっとり汗ばむようだった。

――き、聞いてないぞ、こんなの…!

「な、なんだよ。早く言えよ。俺だって暇じゃないんだぞ」
まさか、そんな馬鹿なと思いながらも言葉をかむ自分に、心の中で舌打ちする。

ケロロとは小さい頃からずっと一緒で、今でこそそれぞれ同性の友達と過ごすことが多いけれど、やっぱり仲のいい幼馴染で友達で。
何故か、幼い頃の思い出が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
正しくは、幼い頃から今までのケロロの笑顔が、だ。

「うん、あのさ…。あのね、耳かして」
ほんの少し頬を染めたケロロが、ギロロの帽子を引っ張る。

こんな顔初めて見た、とギロロがぼんやり思ったときには、ケロロの顔がすぐ目の前に迫っていた。







「ギロロの兄ちゃんって、彼女とかいるの?」



「は?」

「だーかーらー、ガルル兄ちゃんって、好きな人とかいるのかって聞いてるの!」

――それって、つまり…
一気に、周囲の温度が下がったような気がした。

「な…んで?」
「内緒であります」

勘違いした自分が恥ずかしくて、頭に血が上ったのかもしれない。
いつの間にか握り締めていた拳が震えているのは、びっくりしすぎたせいだ。

――…聞いてないぞ、そんなこと

えへへ、と笑うケロロの顔がまともに見れなくなって、ギロロは目を逸らした。

「知らねーよ、そんなの」

つっけんどんな返事をしてしまったのは、ケロロが自分を驚かせたからだ。

そんなことは兄ちゃんに直接聞けよ、という言葉は、咽にひっかかったまま、出てこない。

「そっか。じゃ、イイや。時間とらせてゴメン。ありがとね」

黙ったままのギロロを残して、ケロロはあっさりと去っていてしまった。

――ケロロが、兄ちゃ…ガルルを好き、なんて、聞いてない

ケロロの足音が遠のいても、心の中に何かがもやもやと渦巻いて、ギロロはその場を動けないでいた。







すると。
「ごっめ〜ん!」
ケロロの能天気な声が、ギロロの立っているすぐ向こうの壁から聞こえてきた。


――なんだ?



「ガルル兄ちゃんに彼女いるかどうか、ギロロも知らねーってさ!ごみんに、ゼロロ」



「ケ、ケロロちゃん、声が大きい!」
「シーッ!後ろ!聞こえちゃですぅ!!」

胸の痞えがすっと下りて、急に心が軽くなる。

――なんだ
   ガルルを好きなのは、ケロロじゃなくて――

頬の筋肉が緩くなって、勝手に笑顔になりそうだった。

「ガルルに彼女いるかどうかは知らないけど、特定の女から電話かかかってきたりとか、
 二人で出かけたりとかしてるのは見たことないぞ。良かったな、ゼロロ」


「ケロロちゃんのバカー!ギロロくんに知られちゃったよー!!」
「ご、ごみん…」
「でも、良いこと聞けて良かったですぅ…?」

「じゃぁな」という挨拶も聞こえているのかいないのか。
もうギロロのことなんかどうでも良いような女子3人の、きゃいきゃいと騒がしい声を背中に聞きながら、ギロロは学校を後にした。



――なーんだ
その足取りはとても軽く、まるで羽が生えているかのようだった。





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12500カウントを踏まれた桜様よりリクエスト、「ギロケロ(女の子)」

ちょっと前っていうか、だいぶ前っていうか、そこそこ前(どれでもいい)に、描きたいなーと言っていた学園もの。
既出のケロロ学園の設定で。(若干制服変ってる…けど気にしない)

ぴゅわん♪
ギロロはまだケロロのことを好きと自覚してません…でした。ここからちょっとずつ。ぴゅわん♪

桜様、リクエストありがとうございました。
このイラスト(&SS)は、桜様に限りお持ち帰り可です。(全部持ち帰るのがご面倒なら、最初の絵だけとかでもOKです)