あの頃の君に 1
それは、いつもと変わらない普通の日に起こった。 |
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「貴様!それを寄越さんか!」 「嫌であります!」 地下基地で毎日のように繰り返される、小隊長と機動歩兵の小競り合い。 「これで夏美殿を無力化するんであります!!」 「その作戦は以前失敗したではないか!」 何を思ったのか、突然使い古しの侵略兵器を持ち出す隊長にも賛同しかねるが、かといってギロロのように取り立てて反対する理由もなく。 他の隊員はまたか、という目で二人の言い争いを遠巻きに見ていた。 |
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「ギロロが邪魔しなきゃ大丈夫でありますよ!」 「な!俺は邪魔など――」 「しないって言うんなら放してよー!!!」 ケロロとギロロがお互い、力任せにそれを引っ張ったとき。 バキャン 夢成長促進銃からありえない音がした。 続いて |
銃が暴発し、あたりを閃光で包む。 そして、まっすぐに伸びた光線が、ギロロに当たった…。 |
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「…あぶぅ」 「…こ、こりは」 「あ〜ぁ、やっちまったなぁ」 「可愛くない赤ん坊ですぅ」 |
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生まれたばかりの姿(?)になってしまったギロロを、呆然と見つめる。 とりあえず、床に転がしておくことも出来なくて、抱き上げるが、ぐにゃりと柔らかいその生き物を、どう扱ってよいものか、ケロロは途方にくれた。 「ど、どうしよう」 |
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「どうもこうもねーなぁ。ま、とりあえず急いで銃の修理してやるから、そいつの面倒でもみてな」 「じゃ、そういうことで、頑張ってくださいですぅ」 「え、あ、ちょっと…」 |
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「我輩、赤ん坊の面倒なんて見たことないでありますよー!!!!」 | ||
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数日後。 | ||
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「ク、クルル…修理はまだでありますか。 こいつ、夜泣きがすごくて、もう3日ほとんど 寝てないであります…」 すっかり憔悴しきったケロロが、クルルに修理の催促をした。 が。 |
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「自業自得が身に染みるな、隊長。 俺も3日完徹だぜぇ。 誰かさんがコイツを滅茶苦茶に壊してくれたおかげでなぁ」 「ゲロ…」 「思ったより事態は複雑だぜぇ、隊長?」 「す、すみません」 ケロロよりも荒んだ顔のクルルを見て、ケロロはただ謝るしかなかった。 |
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と、そこへ。 「大変そうでござるな、隊長殿」 |
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「あ、ドロロ!ちょーどいいとこに」 言いながら、ドロロの腕に、赤ん坊ギロロを押し付ける。 「これ、あげるからもう好きにしちゃって!」 「え、ちょ、何?ギロロ君!?」 「ヤダなドロロ、知らなかったの? カクカクシカジカ、そういうことだから、ヨロシクに!」 「ケロロ君ー!?」 |
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その瞬間、突然赤ん坊ギロロの体が発光した。 あまりのまぶしさに、思わず眼を閉じる。 |
「わっ!」 「な、なんでござるか!?」 やがて光が収まり、恐る恐る目を開けてみると。 |
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「あれ…?なんか、ギロロ、ちょっと大きくなってない?」 ドロロの腕の中のギロロは、確かに少し成長していた。 「ねぇ、クルル。これどゆこと?」 「んー、ちょっと貸してみなぁ」 クルルは赤ん坊…いや、幼児のギロロの体になにやらペタペタと貼り付けると、分析を開始した。 「ほ〜、こりゃぁ…」 「え、なにナニ?」 |
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「どうやら成長してるらしいなぁ」 「そんなの見りゃわかるっしょ!」 「でも明らかにおかしいでござるな。 本来ならば、銃の効果が切れれば大人に戻るはずで ござろう?」 「そうだなぁ。でも、コイツの体に異常はないぜぇ。 順調に成長してるってこった」 「つまり?」 「ほっときゃ元に戻るってことだな」 |
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「あ〜ぁ、必死こいて損した」 とつぶやきながら、クルルはさっさとPCを畳んで撤収準備を始める。 「ちょっと待って!ほっとくって、でも完全に元に戻るまでには時間が掛かるんでしょ? ここまでだって3日もかかってんだよ、3日も!!」 「はい、頑張ってー」 「ムリ!我輩、死んじゃうよー!!」 なおも食い下がろうとするケロロの間に、ドロロが割って入った。 「まぁまぁ、ケロロ君。クルル殿も疲れてるみたいだし。 少しの間でよければ、ギロロ君のお世話は僕が変わるでござるよ」 |
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そう言ったとき。 それまでドロロの腕におとなしく抱かれていたギロロが、火のついたように泣き出した。 小さな怪獣のような鳴き声は、決して可愛いとは言えなかった。 が。 「ゲロ…」 必死でこちらに手を伸ばしてくるその様子には、さすがのケロロも少なからず心を打たれた。 |
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「…どうやら、ギロロ君はケロロ君がイイみたいだね」 はい、と手渡されたギロロは、赤ん坊の頃よりも少し重くて。 「え、ちょっとドロロ…」 「僕はタママ殿とクルル殿をラボに運ぶでござるよ」 |
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そう言って3人が基地から出て行ってしまうと、あたりは急に静かになった。 いつの間にか、小さなギロロはケロロの腕の中ですやすやと眠っている。 「まったく、困ったものであります」 いつもは言われている台詞を、その天使のような寝顔に向かってつぶやいた。 |
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続く |
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夢成長促進銃の仕様についてはツッコミ禁止です。壊れたんです。暴発です。ってことでひとつ。 |
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