あの頃の君に 1



それは、いつもと変わらない普通の日に起こった。
「貴様!それを寄越さんか!」
「嫌であります!」
地下基地で毎日のように繰り返される、小隊長と機動歩兵の小競り合い。

「これで夏美殿を無力化するんであります!!」
「その作戦は以前失敗したではないか!」

何を思ったのか、突然使い古しの侵略兵器を持ち出す隊長にも賛同しかねるが、かといってギロロのように取り立てて反対する理由もなく。
他の隊員はまたか、という目で二人の言い争いを遠巻きに見ていた。

「ギロロが邪魔しなきゃ大丈夫でありますよ!」
「な!俺は邪魔など――」
「しないって言うんなら放してよー!!!」
ケロロとギロロがお互い、力任せにそれを引っ張ったとき。

バキャン

夢成長促進銃からありえない音がした。
続いて
ぱぱれぽー!!
銃が暴発し、あたりを閃光で包む。
そして、まっすぐに伸びた光線が、ギロロに当たった…。











「…あぶぅ」

「…こ、こりは」
「あ〜ぁ、やっちまったなぁ」
「可愛くない赤ん坊ですぅ」
生まれたばかりの姿(?)になってしまったギロロを、呆然と見つめる。

とりあえず、床に転がしておくことも出来なくて、抱き上げるが、ぐにゃりと柔らかいその生き物を、どう扱ってよいものか、ケロロは途方にくれた。

「ど、どうしよう」
「どうもこうもねーなぁ。ま、とりあえず急いで銃の修理してやるから、そいつの面倒でもみてな」
「じゃ、そういうことで、頑張ってくださいですぅ」
「え、あ、ちょっと…」
「我輩、赤ん坊の面倒なんて見たことないでありますよー!!!!」




*




数日後。
「ク、クルル…修理はまだでありますか。
 こいつ、夜泣きがすごくて、もう3日ほとんど
 寝てないであります…」

すっかり憔悴しきったケロロが、クルルに修理の催促をした。
が。
「自業自得が身に染みるな、隊長。
 俺も3日完徹だぜぇ。
 誰かさんがコイツを滅茶苦茶に壊してくれたおかげでなぁ」

「ゲロ…」
「思ったより事態は複雑だぜぇ、隊長?」
「す、すみません」
ケロロよりも荒んだ顔のクルルを見て、ケロロはただ謝るしかなかった。
と、そこへ。
「大変そうでござるな、隊長殿」
「あ、ドロロ!ちょーどいいとこに」
言いながら、ドロロの腕に、赤ん坊ギロロを押し付ける。

「これ、あげるからもう好きにしちゃって!」
「え、ちょ、何?ギロロ君!?」
「ヤダなドロロ、知らなかったの?
 カクカクシカジカ、そういうことだから、ヨロシクに!」
「ケロロ君ー!?」

その瞬間、突然赤ん坊ギロロの体が発光した。
あまりのまぶしさに、思わず眼を閉じる。


ぱぱれぽー!!


「わっ!」
「な、なんでござるか!?」

やがて光が収まり、恐る恐る目を開けてみると。
「あれ…?なんか、ギロロ、ちょっと大きくなってない?」
ドロロの腕の中のギロロは、確かに少し成長していた。

「ねぇ、クルル。これどゆこと?」
「んー、ちょっと貸してみなぁ」

クルルは赤ん坊…いや、幼児のギロロの体になにやらペタペタと貼り付けると、分析を開始した。

「ほ〜、こりゃぁ…」
「え、なにナニ?」
「どうやら成長してるらしいなぁ」
「そんなの見りゃわかるっしょ!」
「でも明らかにおかしいでござるな。
 本来ならば、銃の効果が切れれば大人に戻るはずで
 ござろう?」

「そうだなぁ。でも、コイツの体に異常はないぜぇ。
 順調に成長してるってこった」
「つまり?」
「ほっときゃ元に戻るってことだな」
「あ〜ぁ、必死こいて損した」
とつぶやきながら、クルルはさっさとPCを畳んで撤収準備を始める。

「ちょっと待って!ほっとくって、でも完全に元に戻るまでには時間が掛かるんでしょ?
 ここまでだって3日もかかってんだよ、3日も!!」
「はい、頑張ってー」
「ムリ!我輩、死んじゃうよー!!」

なおも食い下がろうとするケロロの間に、ドロロが割って入った。

「まぁまぁ、ケロロ君。クルル殿も疲れてるみたいだし。
 少しの間でよければ、ギロロ君のお世話は僕が変わるでござるよ」

そう言ったとき。

それまでドロロの腕におとなしく抱かれていたギロロが、火のついたように泣き出した。
小さな怪獣のような鳴き声は、決して可愛いとは言えなかった。
が。

「ゲロ…」

必死でこちらに手を伸ばしてくるその様子には、さすがのケロロも少なからず心を打たれた。


「…どうやら、ギロロ君はケロロ君がイイみたいだね」

はい、と手渡されたギロロは、赤ん坊の頃よりも少し重くて。
「え、ちょっとドロロ…」
「僕はタママ殿とクルル殿をラボに運ぶでござるよ」
そう言って3人が基地から出て行ってしまうと、あたりは急に静かになった。
いつの間にか、小さなギロロはケロロの腕の中ですやすやと眠っている。

「まったく、困ったものであります」

いつもは言われている台詞を、その天使のような寝顔に向かってつぶやいた。



続く




夢成長促進銃の仕様についてはツッコミ禁止です。壊れたんです。暴発です。ってことでひとつ。